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超短編小説 感情線が直線で低い位置にある男の話

真っ直ぐで低い位置にある感情線を持つ男、山村健太の話

 

感情線が真っ直ぐで低い位置にある人は、感情を表に出さない冷静で合理的な人です。

この超短編小説は、真っ直ぐで低い位置にある感情線を持つ男、山村健太のお話です。

山村健太と恋人の宮坂みゆきの会話から、この感情線の人柄をお楽しみください。

 


 

「今日は楽しかったね。映画、めちゃくちゃに良かった。感動しまくったよ」

山村健太の恋人、宮坂みゆきは、目を大きく見開いて、健太に話しかけた。

みゆきはデート中、ずっと口角を上がったままで、歩く時は健太の腕から離れない。2人は身長差があるので、みゆきが健太の腕にぶら下がっているように見える。

今はカフェラテを飲みながら、ずっと健太の顔を見つめている。

みゆきは健太と一緒にいる時間が幸せでしかたないようだ。

「健ちゃんは映画どうだったの、面白かったの?」

「そうだね、面白かったよ」

「あんまり面白そうな顔してないよ」

「そんなことないよ、面白かったよ。クライマックスで主人公があの男の孫だとわかった時は感動したよ」

「面白かったらいいんだけどね、今日のデートは楽しいの」

みゆきは健太の顔を覗きこみながら聞いた。

「まぁ、楽しいよ」

「ふーん、健ちゃん、下向いてばっかりで、あたしの顔、あんまり見てくれないし、あたしのこと好きじゃないのかなと不安になっちゃう。あたしの事、好きなの?」

「あー、下向いてんのはコーヒー飲んでるからだよ」

周りのカップルは男子の方から積極的に話しかけて盛り上がっている。中には女子の頬に手を当てていたり、手を握ったりしている。羨ましいなと思いながら、みゆきは他のカップルを見た。

「健ちゃんは、あたしのこと好きって言ってくれないね」

みゆきは口を尖らせた。

「まあ、いいじゃない」

健太はコーヒーに口をつけながら軽く笑みを浮かべた。そして、携帯で時間を確認した。

「遅くなるし、そろそろ帰ろうか」

みゆきは、もう少し健太と話しがしたかったが、渋々、返事をした。

「はーい」

さっきまでの声のトーンとは明らかに違っていた。

 

みゆきは助手席から健太の横顔を見ているのが好きで、今日もハートになった目で健太を見つめていた。

健太の運転は丁寧で安全運転だ。同世代の男友達と違って、割り込まれても感情的になることなく道をゆずる。

みゆきは、そんな健太が運転する居心地の良い助手席が、いつまでも自分専用であってほしいと願っていた。

しかし、今日は言いにくいことを健太に報告しておかなければならなかった。

運転する健太にみゆきは勇気を出して話し始めた。

「健ちゃん、言いにくいんだけど、今度の土曜日に合コンに行かないといけなくなったの」

みゆきは、女友達の佐々木彩花から合コンに誘われていた。

「そうなんだ、めずらしいね」

健太は平然とこたえた。

「あたしが合コンに行くの嫌じゃないの?」

「そりゃ嫌だよ」

「嫌そうに見えないけど」

みゆきは、口を尖らせた。

「みゆきのことだから、誰かにたのまれたんだろ。俺が嫌って言ったら、みゆきが困るだろ」

健太は信号待ちの時にみゆきの顔を見て、笑みを浮かべた。

「まぁ、そうだけど。理由くらい聞いてよ」

「わかったよ、なんで合コンに行かないといけないんだ」

「彩花が男友達に合コンの幹事をたのまれたみたいなんだけど、女の子の人数が足りないみたいで、あたしに来てくれって言われて、行くことになっちゃった」

「そんなことだと、思ったけど気を付けてな」

「わかった、終わったら連絡するね」

 


 

「みゆき、合コン、山村君はOKしてくれたの?」

「うん、「気を付けてな」だって」

また、口を尖らせた。

「どうしたの、ご機嫌ななめじゃない」

「だって、普通は彼女が合コン行くって言ったら怒るでしょ。健ちゃんは平然としてるんだよ。あたし愛されてないのかなて悩むよ。彩花はどう思う?」

「山村君はそういうとこあるからね。あまり自分を出さないから、何を考えてるのかわからないわ」

彩花は、そう言ってタバコに火をつけた。

「はーぁ、もっと愛されたいなぁ。「合コンなんか行くな、俺だけを見ておけ」とか言われたいなぁ」

みゆきはテーブルに肘をつきながら両手を頬にあて、遠くを見つめた。

「じゃあ、明日の合コンで浮気してみたら。山村君、どんな反応するかしら」

「えっ、そんなのムリムリ、絶対、ダメ」

みゆきは何度も首を小刻みに横にふってから右手も何度もふった。

「フフフ、冗談よ、でも少しは心配かけてみてもいいんじゃない。みゆきは一途過ぎるから、山村君、安心しきってんのよ。そのうち山村君、安心しきって浮気するよ。もっと山村君がみゆきに夢中になるように協力してあげるわ」

彩花はタバコの火を消しながら笑みを浮かべた。

「どうしたら、健ちゃんがあたしに夢中になるのかな」

「少しは心配させないとダメ。だから明日の合コン終わってからも連絡しちゃダメよ。そしたら、ちょっとは心配するんじゃないかしら」

「健ちゃん怒らないかな」

「少しくらい怒らせないと、それから次の日にあたしが山村君に嘘ついとくから」

「えっ、嘘つくの?」

「そう、みゆきが合コンの後、男と二人っきりで帰ったって言うの」

「ダメダメ、あたし、健ちゃんに嫌われるよ」

みゆきは目を見開き、首を何度も横にふった。

「何言ってんの、それくらい心配させないと、本当に山村君に浮気されるよ。あたしを信じなさい。わかった」

みゆきは不安でしかたなかったが、彩花の方が経験が豊富だし、彩花の迫力に負けてしまった。いつも、みゆきは彩花には逆らえない。

 


 

「山村君、急に呼び出して、ごめんね」

「別にいいけど、めずらしいね」

「うん、ちょっと話しがあって、みゆきの事なんだけど、あたしが無理矢理合コンに誘っちゃってごめんなさい」

「あー、女の子が足りなかったんだろ。みゆきから聞いたよ」

「でね、合コンの後、みゆきから連絡はあったの?」

「いや、それが無いんだよな。終わったら連絡するって言ってたんだけど」

「実はね、合コンでみゆきを気に入った男の子がいて、ずっと、みゆきを口説いてたの。最初のうちは、みゆきも断ってたんだけど、合コン終わってから2人で姿消しちゃったのよ」

「そ、そうなんだ」

さすがの山村も動揺した様子だった。

彩花はその様子を見て、口元に笑みを浮かべた。

「多分、みゆきは浮気してると思う」

「それは無いよ、みゆきはそんな事しないよ」

山村は右手を大きく横にふった。

「でも、おかしいでしょ。山村君に連絡してこないなんて」

「確かにな」

山村は不安になっていた。

「山村君は、みゆきの事、好きなの?」

「あぁ、一応」

「一応? その程度の好きなの」

「そんなことないよ、好きだよ、愛してるよ」

「ふーん、あたしとどっちが好きなの」

「えっ、佐々木さんとみゆきと?」

「そう、実は昔から、あたしは山村君の事が好きだったのに、みゆきが告白して付き合うようになっちゃったから、言えなくなったの」

「……」

「だから、みゆきも浮気してるみたいだし、山村君もあたしと浮気しようよ」

「何バカなこと言ってんの。みゆきが浮気したと決まったわけじゃないし、もし、そうだとしても俺が佐々木さんと浮気する理由にはならないし」

「だって、みゆきが浮気してたら、山村君、腹立つでしょ。仕返ししたくなるじゃない。だからあたしがその浮気相手になりたいのよ」

「みゆきが浮気してたら、ショックだけど、別に仕返ししたいとは思わないし、とりあえず今はみゆきと連絡とりたいだけだよ」

「はぁ、山村君て、つまんない男ね」

「佐々木さん、みゆきは君の事、頭が良くて綺麗で大人っぽくて憧れてるみたいだから、みゆきの気持ちを壊さないであげてくれる。それじゃあ帰るわ」

 

その頃、みゆきは健太に連絡したくてウズウズしていた。

しばらくすると健太からの着信が鳴った。

「あっ、健ちゃんからだ」

何て言えばいいんだろう。怒ってるかな。

「おぅ、みゆき、連絡ないから心配したよ。元気か?」

「健ちゃん、怒ってない?」

「怒ってないけど、みゆきが浮気してないか心配してるんだけど」

「浮気なんかしないよ。健ちゃん、あたしがそんな事すると思う」

「まぁ、無いわな、心配して損したかな」

「うん、健ちゃんは損したと思う。あたしは、心配してもらえて嬉しかったよ」

「みゆきが嬉しかったなら、今回の事は良しとするわ」